本記事は6月29日に京都のクリエイティブビルREDIYで行われたイベント、主観的地図作りワークショップレポートです。
書き手:Nao
2018年4月よりStrolyでコミュニケーションデザイナーを務める。位置情報付きでイラストマップの公開ができる地図のプラットフォーム、Stroly.comを活用したまち歩きイベントや地図の製作イベントを行う。メキシコや台湾など、国内に限らず海外でも地域のコミュニティやクリエイターと連携して、地図の持つ可能性を探索中。
主観的地図作りワークショップとは
仕事の帰り道に嗅ぐ中華屋さんの匂い、高架下の電車の音、昔友達と喧嘩をした場所の公園・・・。街を歩くとき、私たちの五感はフル稼働しています。
Googleマップやガイドブック、観光地図など、私たちが利用する地図の多くは、ニュートラルに編集されています。地図に書かれているのは、あくまで「情報」であり、その街に暮らす人の「感情」や「思考」はありません。
もし、感想や経験、記憶、五感で感じたことなど、「普段のなんでもない日常の断片」が記された地図があったら?一般的な地図からはこぼれ落ちてしまう何かをすくい上げるのが、「主観的地図」です。
– Facebook イベントページより引用
今回は杉田真理子さんとStrolyとの初のコラボレーション企画です。杉田さんは都市デザイン・建築分野を専門に活動する編集者・リサーチャーで、活動のひとつとして個人の視点から街を編む「主観的地図」をつくるワークショップを、国内外で定期的に開催しています。
杉田真理子(フリーランス 都市デザイン専門編集者、ライター、翻訳家)
デンマークオーフス大学で都市社会学専攻、その後ブリュッセル自由大学大学院にて、Urban Studies修士号取得。ブリュッセル、ウィーン、コペンハーゲン、マドリードの4拠点を移動しながら、エリアブランディング、都市人口学、まちづくりの計画理論などを学ぶ。欧州を中心に、現在まで多くの都市・街づくり関連団体を訪れ、参加型調査やワークショップを重ねてきた経験から、参加型街づくりの仕組みづくりやその情報発信を得意とする。2018年5月から北米へ拠点を移動し、フリーへ。都市に関する取材執筆、調査、翻訳、調査成果物やアーカイブシステムの構築など、編集を軸にした活動を行う。
会場のREDIY(リディ)は、京都中央卸売市場脇にある元乾物屋のビルで、工房が建物内にある珍しいシェアハウスです。
杉田さんも住民の一人で、家具職人や洋・和菓子職人さんなどクリエイティビティに溢れた住人さんが日々創作活動に打ち込んでいます。
Strolyでは、昨年度より京都の芸術大学である京都精華大学さんや地域の地図作りコミュニティである上京ちず部さんと協力して、「視点が変われば体験が変わる」をキーワードに地図作りワークショップを京都で実施してきました。
地図の製作と新たな表現を考える中で注目してきたのが、網羅的で客観的な地図ではなく、まさに個人の視点が詰まった主観的な地図でした。
主観的地図作りワークショップの企画者である杉田さんと縁あって今回のイベントの開催となりました。
ユーザーとStrolyの地図ワークショップを開催してきた筆者が感じる、今回のイベントで特徴的だった3つのポイントをベースにその模様について紹介したいと思います。
- 「主観的な地図の面白さとは」
- 「いつもとは視点を変えてまちを歩く」
- 「視点を変えて見えてきた主観」
「主観的な地図の面白さとは」
今回のテーマは、“主観的な”地図づくり。主観的な地図と聞いて皆さんはどんなイメージを持ちますか?
イベント会場REDIYでのWSの様子
筆者自身、A地点からB地点への移動を効率的にするルート検索のために地図を見る機会が増え、いつの間にかスマホアプリの地図がなくては生きていけない今日この頃です。
客観的でニュートラルに情報がまとめられた便利な地図ではなく、個人の経験や、記憶、五感で感じたことなど、「普段のなんでもない日常の断片」が記された地図があったら、をテーマに「主観的地図」について参加者の皆さんと考えました。
主観的地図作りのコンセプトの元は、杉田さんの体験を変えた一枚の地図にあります。
その地図は、Nancy Chandlerというデザイナーが手書きで作ったバンコクの地図。
杉田さんのスライドより引用
“ショップやレストラン、歴史的な建造物の名前だけでなく、彼女自身の意見やアドバイスなど、クスッと笑ってしまうような説明書きがついていた。”
“例えば、銃器を売っている店に、「うーん、こんなものを売らなければもっと良い世の中になるのに」と書いてある。見所を知りたい観光客にとっては、どうでもいい情報かもしれない。けれど、パーソナルで、少しお節介な地図(中略)気づけば、彼女とおしゃべりをしている気分になった。”
単に情報がまとめられた地図ではなく、まさに地図を持ち歩く人の体験を変える“主観的な”地図。
ガイドブックで調べた観光名所に足を運んでも、「その場所にいる感じ」を掴むことができなかった杉田さんの体験が、この一枚の地図によって誰かの体験を追体験できるような、そんな素敵な体験に変わりました。
Share the way see the worldをコンセプトに地図を新たなメディアとして考えるStrolyがオススメするイラスト地図の面白さはまさにここにあります。
「いつもとは視点を変えてまちを歩く」
この日の参加者は、ガイドさんや、画家さん、都市計画、建築、まちづくりをフィールドに関わる人など様々なバックグラウンドを持つ18名。
共通することは、アイスブレイクの“私と地図”というテーマで話が尽きない、地域に対する愛着と地図への強い関心をもつ皆さんでした。
杉田さんのスライドより引用 Credit: Lisa Niwano
ワークショップでは白地図を持ってまちに出て、独自の視点から主観的に発見したことを記録します。最後には記録した自身の視点を発表します。
めせんチェンジカード
今回、視点を変えてまちを歩いてもらうべく用意したのは“めせんチェンジカード”。
こちらは昨年に精華大学森原先生と洞ノ上さんと地図製作WS開発の中で一緒に作成した、まちに対する当たり前や、予測をさせずに“バイアス”を外して観察するための仕掛けです。
参加者はこのカードを引いて、丹波口、朱雀宝蔵町エリアに繰り出します。
フィールドワーク中の参加者
カードの“視点”を元に興味を引くものをまちの中から探します。
意図的にカードで視点を固定させることで、観察の変化やその視点に対しての深掘りが出来ます。
今回の会場である朱雀宝蔵町エリアは、辺りにターレーと呼ばれる荷物を運ぶ乗り物がビュンビュン走り、魚の匂いがして中央卸売市場をすぐ近くに感じます。
梅小路公園西駅、丹波口駅の間で京都駅からも絶好のアクセスにも関わらず、実は京都出身の人でも普段あまり訪れない、「京都に見えない京都」を体験してもらいました。
例えば、「歴史」の視点でこのエリアを見てみると、当時の姿と今の建物の違いを比較しながら歩くのも面白いです。この地図はStrolyに掲載されている約100年前に作られた地図、京都市明細図です。
火災保険協会が保険料算定のために製作した地図であり、階数や建物の種別など詳細な情報が掲載されており現在の街並みとの比較が楽しいです。
「視点を変えて見えてきた主観」
フィールドワーク中の参加者
今回のワークショップでいつもとは違った視点で歩くことから見えてきたのは、普段とは違う視点でした。
例えば、“空”というカードを引いた参加者は連想した“空(から)”から、街にある放置された無用なものにフォーカスを当てました。
“ホーム”を探した参加者は、子供用の自転車やおもちゃなど、日常の中にある“家庭の痕跡”を見つけました。
参加者の記録したフィールドワークシート
意識していつもとは違う視点でまちを観察することで、当たり前の“まち歩きの視点”にとらわれずに、“何気ない日常”を楽しんでいただけたのではないか、と感じています。
イベントを終えて
今回のイベントでは、めせんチェンジカードなど視点を固定することで、普段とは違った視点でフィールドワークをしてもらいました。その結果、無意識なに見ているまちに対する視点に気がつき、視点を変えてまちの観察を楽しんでもらうことができました。
この観察は初めてのまち歩きだけではなく、日常の一部となった自身の生活圏を見直すことにも応用ができるのではないかと考えます。観察によって見つけた発見から、そのまちをさらに好きになってもらえるきっかけが作れるかもしれません。
将来的には、その主観を地図によって共有することで、他の人のまちの魅力発見のきっかけに繋がれば素敵ではないかと個人的に感じています。引き続き主観的地図作りワークショップを実施しながら、その可能性について考えていきたいと思います。
「Strolyであなたの主観的地図を公開しませんか?」
Stroly.comでは、皆さんが書いた手書き地図を簡単にオンラインで公開することができます。
あなたの視点で見るまちはどんなまちですか。地図にして、共有してみるのはいかがでしょうか。
「普段のなんでもない日常の断片」にあなたのまちの素敵な魅力が隠れているかもしれません。
以上、日常の断片を書きとめる、主観的地図作りワークショップ開催レポートでした!
Strolyのサポートチームは地図を書くあなたを応援します!興味がある方はこちらからどうぞ。
写真:Akira Moriuchi, 杉田真理子