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Stroly Map Creators Interview vol. 5-2

【後編】人気作家もりゆか、地図への歩み

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5 years ago

前編ではもりゆかさんのルーツについて探っていきましたが、温度や湿度、匂いからインスピレーションを受けているというお話は特に印象的でした。

続いて後編では実際に地図を描く「プロセス」について詳しく深掘りをしていきます。
それではお楽しみください!

・・・

【地図を描く時に見るものは木版画展の図録】

なるほど。ちなみに、先日の「深草・稲荷まちあるきマップ」もそうですけど、地図を組み立てる時に参考にしてるものって何かありますか?

あります!
江戸時代の夏をテーマにした木版画の展覧会が昔あったんですけど、その時の図録をいつも見ています。

浮世絵の夏-図録-表紙

わたし結構文字を枠で囲んで書くじゃないですか。
その時に短冊みたいなのが沢山出てきたりとか、タイトルもこんな風に描いてあってここに美人画みたいなのがある木版画が多くて、こういった枠のデザインがすごい好きだったりします。

参考にしている枠のデザイン

でも1番の理由は木版画の線の細さを見るとすごくドキドキして、「こういう感じで描きたい!」っていうモチベーションアップの為に見てますね。

うちわの持ち手の繊細な線にドキドキ

細かく言うと、例えばうちわを持ってたりするんですけど、このうちわの持ち手の辺とかもすごく繊細でかっこよくて、こういうのを見てモチベーションを上げるというのが一つと、

大きめの横長の木版なんですけど、橋があってそこに米粒くらいのサイズ感で人が花火を見てるっていう木版画があるんですよ。

それを見た時に、「木版でこれをやってた人間がいるんだ」って思って、「絵をちょっと細かく描くぐらいで文句言ってたらあかんわ」って思ったんですよ。

なのでこの図録は本当によく見ています。

図として見るというよりは、その世界観とか「地図を描くぞ」っていう気合いを入れる為に毎回参考にしてるという感じですかね。

あと色もすごい好きで、昔の着物の色とか、柄なんかはよく参考にしてます。
地図的なもので参考にしているものって意外とないですね。

ただ、昔の古地図の山の描写とか、この前見た伏見の辺りの地図の山の描き方とか勉強になります。

見えたままを描いている古地図ですよね!

中心から見た山々

あれって完全に、上の方に視点があって見下ろすように見てるんじゃなくて、人の周りに山があって、「中心から人が見てる感じなんだ〜」って思った時に、「あ、地図って方向が全部一緒のところを向いているイメージがあったけど、これでも成立するんや」って思いました。

今みたいに一方向から描いていくのが主流になったのもきっと理由があるんだと思うんですけど、当時の多くの人には自分の見えてる範囲とか見えてるものをそのまま描くっていうのが多分一番身近だったんだろうなっていうことが伺えます。現代においてこの技法はなかなか見ないので面白いですよね。

そう!見ないから、この自由さっていうか、山を枠に対してこう描く自由さは毎回衝撃なので、ちょっと見たりとかしますね。

たしかに古地図を見ていくと面白いですよね。
地図とはまた少し違うかもしれないですけど、絵巻物とかでも立体図のような平面図のようなものがあったり空間把握が独特ですよね。

桶とかもパースが真逆やったりしますもんね。

「見たまんま、感じたまんまを描く」とか「描けるものを描く!」みたいな強い意思を感じます。笑

マインドは参考にしたいです。笑

【製作工程について】

では続いて、どういったプロセスで地図を作られていますか?
というのも、これは人によって結構違っていて、漫画を描かれる方はキャラクターから作って、物語が付いていたりするので、ゆかさんの場合も気になった次第です。

わたしはですね、特にStrolyさんで描く地図は目的が決まっている地図の場合が多いので、描くべきところが決まってたら一緒に取材をして、その後に雰囲気を決めます。

雰囲気というのはざっくりなんですけど、今までの筆で描いているちょっと渋目のテイストでいいのか、それとも繊細な感じで描いた方が合うかとか、枠とかを入れる入れないとか、使用する紙も和紙っぽいものを使う方がいいのかとかその辺りですね。

キャラクターはどうですか?

実はキャラクターはそんなに重視していなくて、それよりかは建物の方が描きたい欲が強いと思います。
でも入れるんだったら自分の喋り口調に合うキャラクターにしています。要望があれば合わせる、という感じです。

描きたい場所とか、自分がそこに行ってみて「絶対ここは地図の中に入れたい!」というのがあれば絶対に描きます。それで、その後はもういきなり紙にラフを描いていきますね。

「深草・稲荷まちあるきマップ」でも思ったんですけど、ラフの段階ですごくしっかり描き込まれていて最初見た時、「すでに完成度が高い!」と驚きました。

深草・稲荷まち歩きマップ-ラフ

それが「この場所にこれを配置して…」ってしてるとバランスが全然とれないので、いきなり全体像というよりもなんとなく地図の形を描いて、いきなり絵を描いていくんですよ。

描いてみてから「やっぱり小さすぎるな」とか「やっぱりもうちょっと大きい紙の方がいいな」って調節していくような感じで進めているので、すごく非効率的なんですよね。
それで、大体の場所が決まってからキャラクターを考えて、実際に絵の中に乗せていくような感じです。

なるほど。そしてそれを下書きして、実際に筆入れをして、色付けしてちょっと調整して完成という流れですか?

そうですね!わたしの中では、最後は運動なのでここまでが地図について真剣に考えているプロセスという感じです。

あとは運動ですね。

はい。笑
だから次に決まっている地図は「ずっと運動していいよ〜」みたいな雰囲気じゃないですか。あまり「これはやらないでください」っていう制約もなさそうだし、「いきなり美味しいところから始めちゃっていいの?」と思っていて、楽しみなんですよね。

【キャラクターは要望がなければうさぎになります】

先ほど「キャラクターはそんなに重要ではない」て仰ってたと思うんですけど、要望があれば応えて何パターンか提案して決めていくんですか?

そうですね。「なければウサギになっちゃうぞ」という感じです。

そのウサギというのは何か理由があるんですか?

描きやすいっていうのと、あとウサギって耳を描いて目と鼻を描くこの段階で完成できるんですよ。
でもサルとかだと、わたしの描きかたの問題もあると思うんですけど、やっぱり口が欲しくなって、口があるということは、表情が鮮明に描けるので、ウサギよりは時間がかかるんですよね。

なるほど。より人間に近いのかな。

そうなんです!ってなると手の動きも人間に近く描けるので。
ニワトリもわりと口が重要なんで、顔で物語れちゃうんですよ。

でもウサギだと、例えばこれで団子を持っていたとしても、テンションが上がってるように見えたりするんですよ。
キテレツな物を見てるだけのウサギを描いても無表情なのに「なんやこれ」みたいなことを言ってそうなウサギに見えるんですよね。

絵を見てすごく納得しました。

そうなんですよ。キティちゃんとかも表情がないじゃないですか。
でも無表情だからこその読み手が想像できる余白があると思うんですよね。
なので、ウサギが何にでも使いやすいので一番に描いちゃう癖みたいなのはあります。

キャラクターにモデルはいるんですか?

そうですね、自ずと自分を投影したり、一緒に取材に行った人を投影しています。
「この子はこういう性格でこうしよう」って決めるというより、描いているうちに深草の地図だったら「カオルさんこんなこと言ってたな」とか自分が思ったことをそのまま描いていくと勝手にそのキャラクターになっていって、勝手に喋ってくれているという感じです。

入口は割と自分から始まって、そこから勝手に育つというか、自分じゃ無いけど、近い人になるみたいな感覚ですね。

そうです。なので、凸凹コンビが一番描きやすいです。
性格の似た2人を描くというよりかは、1人が超テンション高くて、もう1人が「まあそうだね〜」みたいな感じが掛け合いができるというか、どっちにもなれる感覚があって好きですね。

【得意なことは細かい線をかくこと、苦手なものは車】

では続いて、これはStrolyのみんなが特に京阪電車の一日乗車券の地図を見ながら「どうやって一見何もないように見える場所をあんなに魅力的にわかりやすく描けるんですか?」と口を揃えて言うんですけど、描く時のポイントって何かありますか?

鞍馬・貴船・大原イラストマップ(キャンペーン/配布は終了しています)

ええ!嬉しいです。
逆にどこを見て、そう言ってくださっているのか聞きたいんですけど、山とかですか?

そうですね、主に山なんですけど、こんなにもストーリーが浮かび上がって来るのかと感銘を受けてます。

それは本当に無意識でやってるかもしれないです。
でももしかしたら、みなさんが魅力的に見えているものを、わたしは自分でも知らないうちに「絵を描く」という視点で見ていると思います。

わたしも筆を使って描くことが得意なものと苦手なものがハッキリとあるんですね。
今は頑張ったら描けるけど、昔から「車」を描くのはすごく苦手で、逆に得意なものが昔の家とかで、特に得意なのが簾(すだれ)でこういう細い線を描いていく作業なんですよ。

こうやって線があるだけで、情報量もすごく多く見えるし、それに、まっすぐ線を描く緊張感が無になれるので嫌いじゃないんですよね。

そういうこともあって京阪さんの地図は、お寺の階段とか、貴船神社の建物とか、川床の屋根の簾みたいなものが間違いなく全部自分の好きなこの感じなんですよ。
すごい無意識なことだと思うんですけど、そう言うことだと思います。

鞍馬・貴船・大原イラストマップ(キャンペーン/配布は終了しています)

あと石とかも結構好きです。石畳や石垣は好きなのでノリノリで描きますね。
逆に都会の地図とかはあんまり描けないと思います。

なるほど。鞍馬・貴船の地図はもりゆかさんとバッチリはまってた訳ですね。

そうですね。多分そうだと思います。

ちなみに、一枚の地図をどれくらいの期間で描きあげていますか?

時間のかかる工程はラフと修正で。ここはクライアントさんによります。
ただ、筆を持ってからは速いので、多く見積もっても一週間くらいあれば完成します。

【地図製作でのこだわりは文字を間違えないこと、そして色彩と軽やかさ】

描いてる時のこだわりって何かありますか?

普通ですけど、「文字を間違えずに書く」です。
修正が利かなかったらまずいものは特に気にしてます。

何気に一番気を使うし、大事ですよね。
そういえばゆかさんの地図を紹介した時に「文字が見やすくていい」という声もよくいただくんですけど書道はされてたんですか?

してました!
書道は小学校1年生の時に「地元にすごくいい先生がいるらしい」という噂を聞いた母が、通わそうと思って、母と兄と3人で通っていました。その先生がすごく好きだったので習字はずっと好きですね。

すごく得意という訳ではないんですけど、「筆を使って書く」という意味で「日本画を描く」っていうことのルーツになっているのかもしれないですね。
昔から「墨を磨る」とか「墨で何かを描く」ということに対してはすごくハードルが低かったです。

なるほど、全てが繋がってますね。無粋な質問かもしれませんが清書の紙に文字の下書きはされますか?

結構ライブ感が好きなので字は清書の紙に下書きはしないです。
気負いせずに書くほうがうまく書ける気がして、でもその分「間違うとやばい!」みたいな緊張感があります。

あと色のまとまりと軽やかさです。
「色彩感覚を駆使しなければ!」と思っている訳ではないんですけど、自分の絵でもそうじゃない絵でも見てると「なんかまとまってないな」って思うことがあるんですね。

「なんかこの色だけ浮きすぎてるな」とか「なんかバランスが不思議だな」とか…
なので、全体を見て「パステルっぽい色を入れた方がまとまりそう」っていう最後の調節みたいなところのこだわりはあります。

軽やかさというのは?

軽やかさっていうのは、描き込んで描き込んで重厚感のある絵っていうよりかは、運動的な「サササ」っと描いたような絵って、見てても心地よかったりすることがあると思うんですよ。描き込まれてないが故の入っていける感覚というか。

扇風機

口紅

個人的にはゆかさんの絵も視線が運動する感じがあって、一つ絵を見たらその次の絵が見たくなります。

ありがとうございます。皆さんにもぜひ視線の運動をして欲しいです。笑

【見いて欲しいポイントは細かいところ!】

具体的に地図のどんなところを見てほしいですか?

「細かいところ」です。
「絶対に見て欲しい!」という訳ではないんですが、例えば実際に京都の地図でお漬物屋さんを描いたんですけど、樽とかは割と忠実に描いているのでそういうところも見て欲しいというのと、意外とそういうところが友達にもウケてたりするので、見ていただけるととても嬉しいです。

【地図を描くことは・・・】

ここで核心なのですが、地図を描くことは楽しいですか?

はい!楽しいです!

よかったです…!じゃあ逆に「ここは苦しいな」というところはありますか?

やっぱりラフの段階ですかね。
苦しいって程でもないんですけど、ラフが決まらない時はモヤモヤしたり、修正が重なってきちゃうと疲れるとかはあります。

あと、キャラクターに感情移入できない時ですね!
でもこれはStrolyさんで描かせてもらってる地図では思ったことは無いです。

【地図作家としてのこれから】

今後、描いてみたい場所はありますか?

これまで京都の地図ばっかり描いているので、海外とか全然違うところやその場所の建造物を描いてみたいです。
あとは、絵の雰囲気とかは今までの感じと変わらないと思うんですけど、地元の比叡山の地図も描きたいですね。あの場所に対しては本当に愛しかないので、すごく愛のこもった地図ができると思います。

確かに日本にあるものは和な感じがどうしても出ますよね。特に京都はそれが多いですよね。

そうなんですよ。全部すごく自分に合ってて楽しいんですけど、「海外の食べ物」とかそうじゃ無いところも描いてみれたらすごく楽しいだろうなって思います。

では地図作家としての夢をぜひお聞かせください。

食べ歩きとか取材をして、わたしが出てくる地図で雑誌とか載りたいです。
それこそ、ほしよりこさんが、Casa BRUTUSで「猫村さんがいく〇〇」みたいな、猫村さんが写真の中に出てきてその場所を紹介する企画があるんですけど、そういうのをやってみたいなってすごく純粋に思うんですよね。

知らない場所に行って、知らない場所での体験をして、それをわたしが地図にするとお金がもらえるっていう。めっちゃ「楽しそう」って思っちゃいます。

【Strolyと出会って仕事が増えました】

Strolyと関わったことによってどんな影響がありましたか?

仕事が増えました。笑
でも本当にそうなんですよ。

地図のお仕事をStrolyさんから依頼いただくのもそうなんですけど、あの京阪の地図が出た後に行きつけの美容室で地図を見せて美容師さんに渡しておいたらその翌日に、その地図を見たゲストハウスのオーナーをされているお客さんから「ゲストハウスに壁画を描いて欲しい」と連絡をいただいたりしたので、本当に感謝しています。

そんなことがあったんですね!私たちも嬉しいです!

それで、Strolyさんの何がいいって、本当に対価をくれるんですよね。
どんなお話もキャリアが浅い私にとってはありがたいお話なんですけど、Strolyさんはクライアントさんに紹介してくださる時も「プロの作家の方です」って、まるですごい有名人みたいに紹介してくださるのが嬉しくて。

やっぱり人が言ってくれたり言葉にされることで、自分がそう思い込んでそうなって行くところもあると思うし、ちゃんと扱ってくれることによって自分の中に責任感が生まれたり、「これでやって行こう」っていう気持ちを支えてくれる感じをStrolyさんはくれるので本当にありがたいです。

こちらこそ本当にありがとうございます。
クリエイティブに対してちゃんと敬意を払っていかないと失礼に当たると思っていているので、ユカさんを含め「ものづくり」をされている方に対してすごくリスペクトをしています。これからもお力になれるように頑張ります。

期待に応えられるように本気で頑張りたいと思います!

【これから地図を描きたいと思っている方へ】

ではこれから地図を描いてみたいと思っている人に何かアドバイスがあればお願いします!

「とりあえず描く」です!
これは本当に思っていて、地図だけじゃないですけど、絵本は特に「描きたいんですよね」とか「いつか絵本作家になりたいです」ってわたしに話をしてくれる人がいるんですけど、結局描いてなかったり、結局コンペに出してなかったりっていう人が多いんですよ。
とにかくなにか描くきっかけを作って描いた方が、絶対何かしらにはなると思うので、とにかく一回描いてみてください。

ありがとうございます。では最後にStrolyに対して何かメッセージがあればお願いします!

いつもありがとうございます!Strolyさん最高です!言うことは以上です!

本当にこちらこそいつもありがとうございます。
そして今日はありがとうございました!

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